権力の距離感

    今回は権力を分けるメリットについて考えてみたいと思います。

 まず、私経済の文脈では、分業によるスリム化を図るというものがありますし、公共の文脈では、権力の暴走を防ぐというものがあるのですが、両者の趣旨は異なります。つまり、分業による効率化というニュアンスだけならば、権力を抑制する原理は必要ありませんが、権力の暴走を止めるというニュアンスでは権力を抑制する原理が要求されるのです。
 権力抑制の手法としては、大きく二種類あるように思います。

 一つは、権力と権力にチャックアンドバランスを働かせる方法で、権力同士を厳格に分離したうえで、それら権力間に対立関係を生じさせることで各権力を抑制しようとするものです。この方法は、権力当事者以外に権力の暴走による不利益を被る者がいる場面で採用されることが多いように思います。例えば、憲法の世界では、三権分立が唱えられ、立法・行政・司法がそれぞれ互いに抑制と均衡を働かせて、国民の人権や権利、利益を保護しようとしているのです。
 もう一つは、分離している権力者に、他方当事者の立場も兼ねさせる方法で、権力自体は分離させつつも、権力による影響の帰属先を一致させて、暴走を防ぐものです。例えば、ストックオプションといって、経営者を株主の立場にもたたせることで経営者が暴走して株主利益を無視した経営をすることを防ごうとするものや、現代的徴兵制論のように、国民を軍人の立場にもたたせることで国民が暴走して軍人に無謀な戦争を命じることを防ごうとするものなどを挙げることができます。この手法は、分断された権力当事者が他方当事者の利益を無視して暴走することを回避しようとするもので、権力当事者以外に不利益を被る者を想定できない場合に有効な方法に思われます。
 このように、権力抑制の原理といっても、いくつかの方法があり、権力の距離感の議論というのが正しいように思います。現実の権力は、完全な一致も完全な分離もあり得ず、その間の無数のバリエーションの中にあります。各文脈に応じて、丁寧な検討をしていく必要があるでしょう。
 また、世界には様々な制度があります。この際、比較法的な見地から、日本の権力分立論を見直しても面白いでしょう。公権力だけでなく、私企業も題材にすることも興味深いかもしれません。なぜなら、民主主義を背負うのか否か、公共財の提供を担うのか否か、という点で、権力同士の距離感のデザインに差があるようにも思われるからです。
 駄文失礼いたしました。