事業者? 消費者? 労働者?

    フリーランスという働き方に注目が集まって久しいと思います。もっとも、フリーランスという概念について、日本社会全体としての統一的理解はないように思います。正直、私にもよくわかりません。実際、フリーランスとフリーターの区別がついていない方もいらっしゃるそうです。
    このような現状は、伝統的な日本型雇用慣行の所産ともいえるでしょう。つまり、「事業者」の下で「労働者」として働いて「事業者」から給与等を受け取る一方、プライベートでは「消費者」として「事業者」から消費財を購入して生活する、というのが典型的な国民のイメージだったのだと思います。このイメージでは、①まずは、雇用主や消費財供給者としての「事業者」を、被用者である「労働者」や消費財需要者である「消費者」から大きく分けた上で、②次に、「労働者」と「消費者」について、職場の場面とプライベートの場面で使い分けることが典型になります。このような典型的な日本型雇用慣行の場合においては、これらの「〇〇者」概念を場面に応じて区別することはさほど難しくないように思われます。
    ところが、フリーランスでは、「労働者」という側面が希釈化されていきます。実際、フリーランスについて、「個人事業主」や「自営業」などといわれるように、「事業者」の性格が強くなります。つまり、フリーランスでは、「事業者」が他の「事業者」から仕事を委託され、当該他の「事業者」から報酬等を受けることが典型例になります。しかし、フリーランスにおいては、楽団員など、「労働者」なのか「事業者」なのか、区別が容易には判然としないケースも多いでしょう。
    さらに、フリーランスでは、「消費者」という側面までも希釈化されていきます。例えば、フリーランスの方が、家電量販店でPCを購入したというとき、そのPCが事業用なのか、私用なのか、明確に区別されてはいないことも多いのではないでしょうか。この場合、事業用で購入すれば、「消費者」ではないが、私用で購入すれば「消費者」である、という分類は説得的なのでしょうか。「事業者」なのか「消費者」なのか、容易には区別がつきません。
    そもそも、どの段階から、「事業」といえるのでしょうか。例えば、フリマアプリで私物を売り、金銭を受け取ったというとき、「事業者」なのか「消費者」なのか。フリマアプリで私物を販売するためにPCを購入したとき、「事業者」なのか「消費者」なのか。結局、定量的な線引きはできず、個別に判断していくことになるでしょう。
 これらの概念については、各法律に一応の定義があります。ここでは引用しませんが、俗に、消費者法・独禁法・労働法・商法などとよばれる法分野において、制定された各種の法律が参考になります。一応の定義があるにもかかわらず、今まさに、これらの分野において、「〇〇者」概念について、専門家・実務家の活発な議論が行われています。私には、その議論の一端を紹介することすらできませんが、「〇〇者」概念は、経済社会における人間という存在を分析する、法分野横断的な根源的問いなのでしょう。さしあたりは、場面に応じて、各「〇〇者」概念を使い分けつつも、区別しきれない場面では、各「〇〇者」概念の要件を満たす限りで、各法律を重畳的に適用する、ということになると思います。現代は、一般法の基礎知識だけでは対処できず、各種特別法を横断する総合的な知識が要求される時代なのでしょう。
    駄文失礼いたしました。